馬場研究室の研究テーマ

馬場研では、高エネルギー天体の観測から、宇宙の様々な高エネルギー現象の理解、またそれを利用した基礎物理の理解を目指した研究を続けています。また、将来のさらなる観測に向け、宇宙X線衛星に搭載する検出器の開発を行っています。詳しい研究内容は、年次報告をご覧ください。

高エネルギー天体の観測

・コンパクトな天体(ブラックホールや中性子星など)
宇宙物理学の醍醐味は、地上では到底実現できないような極限的な物理条件が巨視的なスケールで存在する様を見ることができることです。ブラックホールや中性子星が作り出す環境は、強重力場や強磁場に支配される魅力的な高エネルギー現象にあふれています。私たちは、主に人工衛星によるX線観測を手段として、大小さまざまなブラックホールや降着型の中性子星パルサー、通常の中性子星よりもさらに強い究極の磁場を持つ「マグネター」における物理現象の統一的理解を目指しているます。深い理解のために、理論と観測を定量的に繋ぐアプローチを重視しており、モンテカルロシミュレーションに基づいたX線放射計算コードの開発を進めています。

・広がった天体(超新星残骸)
超新星爆発が引き起こす衝撃波が星間物質を加熱し生成する高温プラズマ:超新星残骸は、星が合成した重元素を宇宙空間へ拡散する、荷電粒子を加速して宇宙線を供給するなど、銀河進化の重要な役割を担うと考えられています。我々は、超新星残骸が含む重元素の特性X線を観測して爆発時の元素組成や速度構造を推定することで「何が超新星爆発をトリガーしたのか」を推定したり、粒子加速の現場であるX線プラズマの温度や電離状態の情報を使い、プラズマに閉じ込められた加速粒子が「どうやって宇宙空間に供給され宇宙線となるのか」を探ったりしています。

超新星残骸SN1006のX線画像。爆発から1000年経った現在も秒速3000km近くで膨張を続けている。
かに星雲のX線画像。中心に存在する中性子星は、太陽質量程度の中性子星が1秒間に33回自転している。

宇宙X線衛星搭載検出器の開発

・XRISM衛星
XRISM (X-Ray Imaging Spectroscopy Mission) 衛星は、「宇宙の構造形成と銀河団の進化」「宇宙の物質循環の歴史」「宇宙のエネルギー輸送と循環」を研究するとともに、「超高分解能X線分光による新しいサイエンス」を開拓することを目的とした宇宙X線衛星ミッションです。馬場研究室では、超新星残骸やパルサー星雲といった銀河系内拡散天体のサイエンス創出、パイルアップシミュレータ開発などで貢献しながら、2022年度打ち上げを目指しています。

XRISM衛星の想像図。(c) ISAS/JAXA

・硬X線撮像偏光計の開発 (cipherプロジェクト)

偏光は光子が持つ基本的な特性ですが、X線より高いエネルギーの宇宙偏光観測は非常に難しく、天文学の技術的フロンティアに位置付けられています。偏光によってもたらされる情報はきわめて重要で、天体物理系の非等方性を反映し、磁場の影響下での放射機構の区別、ブラックホール近傍の散乱体の構造解析、一般相対論による時空歪みの測定、などに従来の分光観測とは異なる切り口で迫ることが可能です。馬場研では、10 keV以上の硬X線と呼ばれる帯域の偏光撮像観測を特に重視しており、CMOSイメージセンサと符号化開口イメージングを組み合わせた新しいX線偏光計の開発を進めています。この技術を超小型衛星「cipher」に搭載することを目指しています。

・MeVガンマ線天文学の開拓 (GRAMSプロジェクト)

X線のすぐ上のエネルギー帯域であるMeVガンマ線は原子核の内部エネルギーに対応し、宇宙における核反応の唯一の直接的なプローブです。しかし、宇宙MeVガンマ線観測は技術的に極めて困難で、依然として高い感度の観測がなされておらず、MeVガンマ線帯域は電磁波天文学における「最後の閉じられた窓」となっています。この窓が開けば、超新星や連星中性子星の衝突合体などの爆発的な現象における核反応や元素合成の様子が見えてくると期待されます。MeVガンマ線を検出し可視化する観測技術は「コンプトン望遠鏡」と呼ばれ、国内外でさまざまな技術開発が進んでいます。私たちは、「ひとみ」衛星に搭載した半導体コンプトン望遠鏡の技術を利用して、さらに大型の液体アルゴンを検出器媒体に利用した高感度コンプトン望遠鏡の開発を進めています。これを気球に搭載する実験に向けて、日米国際協力で装置開発と観測計画の検討を進めています。